年寄りの言動はどんどん幼児に戻っていくようだけど、ときどき、 何もかも見透かしたようなハッとするような事を言う。
私には94才になる祖母がいる。むかしの記憶があやふやで、 物忘れがひどい。テレビに出ているアナウンサーを指さして、この人、最近までここの施設の受付だったとか、時々、突拍子もないことも言う。それでも普通に会話はできる。
祖母は、 若いオトコが大好きだ。私のダンナはもう36歳、 ちっとも若くないけれど、それでも一緒に施設に顔を出すと、 それはそれはとても喜ぶ。「優しそうなダンナさんだねー」 を本人目の前にして、何度も何度も連呼する。 何か下心があるのかもしれない。一緒に写っている写真を見せて、 施設の他の住人に「この若い男性はダレ?」 と訊かれるのが嬉しくて仕方がないらしい。
ある日、 母と女ふたりで施設に顔を出した。ひとしきりおしゃべりして、帰り際、 突然、祖母が私に言った。「このお人形さん、持って帰りな。」 指差した先には、髪が逆立った変な人形。「は?なんで?」 と驚く私に、涼しげな顔して祖母は言った。「それ持っておけば、 赤ちゃんできるから。」
不妊治療に励んでいることを、祖母に話したことなど、 一度もなかった。翌月、私は妊娠した。
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